上野原高原は熊高山岳部の冬山合宿でなじみの場所だった。上州武尊山の雪の中で普通5泊して下山し、最終日は上野原山の家でスキーを借り、高原をスキーで横切って湯の小屋に下って、湯の小屋の露天風呂に浸かって疲れを癒すというぜいたくな一日が待っていた。露天風呂は湯の小屋から50mほど離れた場所にあって、その頃は解放されていて自由に入ることができた。河原に面して石で囲われただけの風呂で、熱い湯が豊富で、すぐ横の積もった雪を搔き入れて入ったりした。
何年か経つと露天だったところに屋根ができ、無料だった入浴が50円⁽?)だったか有料になったと記憶する。そのうち沖武尊の肩の天場から午前中に上野原まで下りてきた年は、そのままバス停まで直行して帰ってしまったりして、湯の小屋までいくことがなくなってしまった。顧問が年末の雑事に忙しくなってということがあったのかもしれない。あるいは、上野原がゴルフ場やスキー場ができてなんだか他人の敷地に入り込むような場所になったりしたことも理由の一つになったか。


そんな頃、偶然湯の小屋から上の原を訪れて、小さな湿地に水芭蕉が咲いているのを発見したことがあり、翌年の1980年04月4・5日に家族で出かけた。湯の小屋のかやぶき屋根の旅館に泊まりたかったのだが、寒くてだめですと言われ、新しい別棟に案内された。翌日、上野原高原はまだ雪が残っていたが、目指す湿原は澄んだ水が流れ暖かな陽射しが満ちていた。何よりうれしかったのは、水芭蕉が昨年以上にいっぱいに咲いていて、しかも尾瀬のように巨大でなく、楚々とした感じでひろがっていることだった。訪れる人もほとんどなく、ひっそりと春の息吹を伝えていた。我々家族は先を急ぐ旅ではなく。ゆっくりと水芭蕉と一緒の時を過ごした。

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