1997.08.17
本庄07:00=軽井沢IC=追分登山口08:15~45-血の池-石尊山稜線11:20~13:00-一杯水手前13:30(ビバーク)
今日はもう何十回と辿ったルートだ。このルートを知ったきっかけは、ある山の先輩の手記だった。ある秋の日、単独でアサマの頂上を目指した彼が、秋の風が吹く中追分が原を横切っていた時、風が強くなってきたと思ったら、急にザックのポケットにつるしていたハーモニカが鳴りだしたという。彼はその音を友として淋しい秋の山道を歩いたのだ。
これを読んだとき私は感動してしまった。ここには山に包まれて山と一体となっている一人の男の姿がある。私がまねをしたら、きざな男と言われてしまいかねないので実行していない。ただそのイメージは男のロマンとして私の心に焼き付いて褪せない。
もう一つ記しておきたいこと。それがこの写真だ。この一冊が私の生涯にわたる山行の記録であるとすれば、やはり妻の写真を入れておきたい。私の個人山行のうち単独行以外はほとんど妻と一緒だった。北は利尻岳から南は高千穂山まで、厳しさは劔岳から表妙義の縦走コースまで、それぞれの思い出の中に妻がいる。長い間よく付き合ってくれた。その感謝の意をこめてここに残す。ルートはこの浅間山・追分ルートで、季節が違う。10月の終わりで石尊山稜線から天狗の露地に出たらくるぶしほどの積雪だった。そこにテントを張って、翌日はアイゼンの用意もなかったので、湯の平を逍遥して戻った。
写真は、その下山路で一杯水からカヤトの原をかき分けて石尊山に出る手前の所だ。全く人に逢わない二日間だった。
1997.08.18
天場07:45-一杯水08.15/25-火山館09:00-湯の平森林限界10:10ー浅間山頂11:10~12:10-森林限界12:40ー天狗の露地-一杯水14:10-天場デポ地点14:30~15:00-石尊山稜線分岐15:45-追分登山口17:20
今日も一日誰にも会わない山歩きを楽しんだ。釜山山頂手前には進入禁止の看板が立てられていて、この先は自己責任ということになる。以前、火口壁に設置されたカメラが噴煙を映し出しているのを見たことがあるが、カメラはまだあるのだろうか。弥陀が城の谷には頂上から続くケーブルが露出しているのだが。噴煙がいっぱいの火口は近づきたくない風景だ。早々に戻る。
天狗の露地から見上げると、前掛山の突端に人影が2,3人小さく見えた。向こうからもこちらが見えたろうか。石尊山への稜線にところどころコケモモが光っている。熊が私のために残しておいてくれたか。大き目のカウベルを鳴らしながら下る。低く響く音だ。
血の池まで下ると左から源泉からの水と合流する。吹き出す源泉は透明だがすぐに濁り始める。猛烈に渋い味だ。とても飲める水ではない。一杯水も水脈が切れてしまった。熊やカモシカはどこで飲み水を得ているのだろう。火山館の前庭に引かれている水はうまい水だ。黒斑から湧く水なのだろうか。或はこの広い浅間山のどこかに動物だけが知る水場があるのかもしれない。人間が知らないだけなのかも。クヌギやミズナラの林を抜けながらそんなことを考えていた。